ていぷるの技術教室

情報化社会に適応できる人間を作るブログ

読書感想:「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」

アメリカのコンサルの話。

 

マーケティングや経営戦略、人事、マネジメントの理論には、古典から最新のものまで数えられないほどの種類がある。

理論とは具体的には、SWOT分析(脅威・機会・強み・弱みのマトリクス)やPPM分析(問題児・花形・金のなる木・負け組のマトリクス)などのことだ。これらは日本のマーケティング学で最初に習うことなの、聞いたことがある人は多いだろう。

さらに本屋に行けば、白い背景に黒い文字で書かれた「〇〇はするな」だの「XXXXXXX(それっぽい英単語)」のような表紙のビジネス本が、新刊コーナーを埋め尽くしている光景を目にする。このように、日々新しい理論がコンサルの手によって作り出されている。

 

だが、それらの理論は一体どれほど有効なのか。

本書では、これらの一般的に良いとされているコンサル的な概念を、ほとんど虚構のものとして切り捨てている。(筆者もコンサル会社でコンサル業務をしていた身でありながらである。)

その理由は大まかに以下の通りである。

・コンサルの指導で経営が改善しなかった事例が沢山ある

・山のようにある理論を全て頭に入れるのは不可能である

・理論を勉強している間に現実の状況が変わる

 

これはまさに、著者の言う通りだ。コンサルはデータを解析して有意な関係性を見つける業務だと思われているが、数値をいじって見栄えをよくし、意味ありげなグラフ作成を行うことは実は容易である。(そして、意味がありそうなグラフこそ、人の心を動かしやすい。)少なくとも本書の中において、経営理論を実践して業績が低迷した企業が多数紹介されている以上、理論が絶対的だということはあり得ない。とはいえ、「反例が1個でも見つかればその理論は正しくない」や「2,3個に当てはまっただけの事例を一般化してはいけない」といった、統計学(というより数学)の初歩的な教養が経営陣にあまりにも理解されていないことが、コンサルの驕り高ぶりを生じさせているのではないか…。

 

本書の内容をまとめると、以下のことを繰り返し述べている。

・理論に基づいた解法を見つけるのではなく、組織がどのような状態なのかを理解した上で適切なアプローチを考える

・人の得手不得手を理解して仕事を割り振る

・業務管理ツールは期間ごとの数値目標を達成するための仕事を作るだけなので、撤廃するべき

 

要するに、ツールや理論による杓子定規なマネジメントから手を引き、人間らしさに基づいた仕事をしよう!ということが言いたいようだ。ただ、どうすればこの理想的な職場環境を作れるのかについては、言及していない。

実際例えば、上司が全ての部下の得手不得手を理解することは大変であるし、理解したところでパズルのように上手いこと業務に割り振れるものではない。人間性を尊重すれば自ずと会社が上手く回るという性善説は、少々楽観的すぎないだろうか?

アメリカの大コンサルティング会社であればともかく、「仕事で楽したくない!」と言う考えの社員を沢山抱えた会社で、なんとかプロジェクトを回すには、やはり業務管理ツールで数値目標を管理するのがベストだろう。(民主主義が最悪の政治形態的な話に近い。)

 

こういう話題で取り上げられるのは、いつも「人材開発」や「圧倒的成長」といった前向きで意識の高い闘争心バリバリマンばかりで、なんとか責任を逃れて月を凌いでる意識低い系社会人は見過ごされている気がする。

後者のような最低限のこと以外やらないような人を集めてもなお、利益を生み出せる経営理論こそが最も実用的で価値が高いと思うのだが、なぜビジネス本では取り上げられないのだろう。