ていぷるの技術教室

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オプション評価の二項モデル1期間【金融工学】

二項モデルについて、学んだ内容を備忘録的にアウトプット。

 

 

例えば、株価が100円だったとする。1日後に70%の確率で株価が200円になり、30%の確率で株価が50円になるような世界を考える

正確にはこの世界では毎日、70%の確率で株価が2倍になり、30%の確率で株価が0.5倍になる。

 

ここで、行使価格が170円のヨーロピアン・コール・オプションを作成することを考えると、このオプションはいくらで売るのが妥当だろうか?

 

 

このオプション価格を決めるにあたって、裁定取引複製ポートフォリオいう考え方が大事になる。

 

複製ポートフォリオとは、オプションの価値を原資産と安全資産で構築するものだ。要するに、オプションと株式・安全資産の間では無裁定条件が成り立っているので、オプションの価値は株式と安全資産を組み合わせることで再現できるものであり、その具体的な組み合わせが複製ポートフォリオと呼ばれる。

 

数式を使って説明する。

0日目の株式の価格をS、株の購入枚数をN、銀行からの借り入れ額or預金額をBとする。また、安全利子率をrとする。

 

先ほど説明した通り、株式の価値SNと銀行のお金Bで、オプションの価値C0は再現できなければならない。(もしどちらがの価値が高ければ、安い方を高い価格で売って金儲けできてしまい、無裁定条件が成り立たない)

(1) SN + B = C0

 

この等式1日後にも成り立っていなければならないので、1日後の関係式は次のようになる。ただし冒頭紹介した通り、株価の上昇率u=2.0, 下効率d=0.5である。

(2) uSN + (1 + r)B = C1(u) = max{uS - K, 0} (株価が2倍になる場合)

(3) dSN + (1 + r)B = C1(d) = max{dS - K, 0} (株価が0.5倍になる場合)

 

株価はu倍またはd倍され、銀行のお金は1+r倍の金利がついており、オプションの価値C1(u), C1(d)は行使価格Kと株価の大小関係で決まる。

 

(2), (3)はN, Bに関する連立方程式なので、これを解くと、

N = {\displaystyle\frac{C1(u) - C1(d)}{\\{ (u - d)×S \\}}}

B = {\displaystyle\frac{u×C1(d) - d×C1(u)}{\\{ (u - d)×(1 + r) \\}}}

 

と求まる。これを(1)に代入すると、

C0 = SN + B

  = {\displaystyle \frac{ 1 }{ 1+r } ×  [ \frac{ (1+r) - d }{ u-d } C1(u) + \frac{ u - (1+r) }{ u-d } C1(d) ] }

  ={\displaystyle \frac{ 1 }{ 1+r } ×  [ qC1(u) + (1 - q)C2(d) ] }

  (但し、{\displaystyle q = \frac{ (1+r) - d }{ u-d } })

 

と表される。

これが何を意味するか分かるだろうか?

 

なんとオプションの販売価格は、株価が上下する確率に関係なく、取引満期のオプション価値だけで計算できるのだ。

 

より詳細に言えば、万期時点のオプションの期待値をqを用いて計算し、 安全資産の利子率で割引することによって、オプションの現在価値を求めることができるのだ。

このqはリスク中立確率と呼ばれ、無裁定条件が成り立つ世界での仮想的な確率変数である。(確率の期待値計算と同じように使っているだけで、実際は確率を表しているわけではないことに注意する)

無裁定条件ってなに!?【金融工学】

無裁定条件について、学んだことを備忘録的にアウトプット。

 

例えば、

「東京で10万円で買った宝石を、大阪では12万円で売ることができる」

という状況があるとする。

この場合、東京で宝石を買いまくって大阪で売っぱらうのを繰り返せば、誰でもお金持ちになれてしまう。

こういう確実に金儲けができる取引を、「裁定取引」って言う。

 

だけど、裁定取引が存在することがバレてしまうと、みんな大阪で宝石を売るから、大阪には宝石がたくさん流通して、結果的に宝石の値段は安くなっていく。(需要と供給の関係)

大阪での宝石の価格が10万円になると、東京で宝石を10万円で買っても利益が出ないので、取引をする人はいなくなってしまう。

 

このような、商品の価格に差がある状況はいずれ解消され、全て同じ価格になるという考え方が、無裁定条件と呼ばれるものだ。

 

金融工学の世界では、デリバティブ原資産安全資産の3つの商品(価値)が互いに無裁定条件の取引対象となり、これに安全資産の利子率を加えた計算式がよく用いられる。

読書感想:「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」

アメリカのコンサルの話。

 

マーケティングや経営戦略、人事、マネジメントの理論には、古典から最新のものまで数えられないほどの種類がある。

理論とは具体的には、SWOT分析(脅威・機会・強み・弱みのマトリクス)やPPM分析(問題児・花形・金のなる木・負け組のマトリクス)などのことだ。これらは日本のマーケティング学で最初に習うことなの、聞いたことがある人は多いだろう。

さらに本屋に行けば、白い背景に黒い文字で書かれた「〇〇はするな」だの「XXXXXXX(それっぽい英単語)」のような表紙のビジネス本が、新刊コーナーを埋め尽くしている光景を目にする。このように、日々新しい理論がコンサルの手によって作り出されている。

 

だが、それらの理論は一体どれほど有効なのか。

本書では、これらの一般的に良いとされているコンサル的な概念を、ほとんど虚構のものとして切り捨てている。(筆者もコンサル会社でコンサル業務をしていた身でありながらである。)

その理由は大まかに以下の通りである。

・コンサルの指導で経営が改善しなかった事例が沢山ある

・山のようにある理論を全て頭に入れるのは不可能である

・理論を勉強している間に現実の状況が変わる

 

これはまさに、著者の言う通りだ。コンサルはデータを解析して有意な関係性を見つける業務だと思われているが、数値をいじって見栄えをよくし、意味ありげなグラフ作成を行うことは実は容易である。(そして、意味がありそうなグラフこそ、人の心を動かしやすい。)少なくとも本書の中において、経営理論を実践して業績が低迷した企業が多数紹介されている以上、理論が絶対的だということはあり得ない。とはいえ、「反例が1個でも見つかればその理論は正しくない」や「2,3個に当てはまっただけの事例を一般化してはいけない」といった、統計学(というより数学)の初歩的な教養が経営陣にあまりにも理解されていないことが、コンサルの驕り高ぶりを生じさせているのではないか…。

 

本書の内容をまとめると、以下のことを繰り返し述べている。

・理論に基づいた解法を見つけるのではなく、組織がどのような状態なのかを理解した上で適切なアプローチを考える

・人の得手不得手を理解して仕事を割り振る

・業務管理ツールは期間ごとの数値目標を達成するための仕事を作るだけなので、撤廃するべき

 

要するに、ツールや理論による杓子定規なマネジメントから手を引き、人間らしさに基づいた仕事をしよう!ということが言いたいようだ。ただ、どうすればこの理想的な職場環境を作れるのかについては、言及していない。

実際例えば、上司が全ての部下の得手不得手を理解することは大変であるし、理解したところでパズルのように上手いこと業務に割り振れるものではない。人間性を尊重すれば自ずと会社が上手く回るという性善説は、少々楽観的すぎないだろうか?

アメリカの大コンサルティング会社であればともかく、「仕事で楽したくない!」と言う考えの社員を沢山抱えた会社で、なんとかプロジェクトを回すには、やはり業務管理ツールで数値目標を管理するのがベストだろう。(民主主義が最悪の政治形態的な話に近い。)

 

こういう話題で取り上げられるのは、いつも「人材開発」や「圧倒的成長」といった前向きで意識の高い闘争心バリバリマンばかりで、なんとか責任を逃れて月を凌いでる意識低い系社会人は見過ごされている気がする。

後者のような最低限のこと以外やらないような人を集めてもなお、利益を生み出せる経営理論こそが最も実用的で価値が高いと思うのだが、なぜビジネス本では取り上げられないのだろう。